多職種連携について

1 心不全診療における包括的アプローチ

日本循環器学会のガイドラインに示されている心不全診療の概念図を示します。

日本循環器学会のガイドラインに示されている心不全診療の概念図

図1日本循環器学会ホームページ

心不全は、ステージAからステージDまでの4段階に分かれます。ステージAおよびステージBは臨床的な心不全になる前の段階であり、主に生活習慣病を起こさないこと、生活習慣病の管理が主体となります。ステージCは、臨床的な心不全の状態で、心不全に対する原因療法および対症療法を行い、心不全の発症、進展を防ぎます。ステージDとなると、心不全は進行期あるいは終末期となり、状況により緩和医療も考慮されます。ステージC以降は、心不全増悪による入院を繰り返すことで、心不全の進行、生活の質の低下が、緩徐に進行します。この再入院には、生活習慣が大きく影響します。

心不全再入院の原因

心不全再入院の原因

心不全は再入院を繰り返しながら、病状が進行していきますが、がんと異なり、この再入院の原因の半分以上が患者さん側の要因です。このことから、心不全患者には、包括的な疾患管理が必要とされています。

2 心不全チーム診療

心不全に対する包括的疾患管理の必要性から、それぞれの分野の専門職種による

院内多職種連携による心不全チーム診療が必要となります。

図3心不全他職種チーム診療・オリジナル

図3心不全他職種チーム診療・オリジナル

多職種介入による包括的管理におけるチームアプローチの流れ

多職種介入による包括的管理におけるチームアプローチの流れ

包括的疾患管理には、それぞれの専門職種によるアプローチが重要であり、医師だけの介入では不十分です。これらの包括的疾患管理を急性期、回復期、維持期と継続していくことが、生命予後の延長だけでなく、健康寿命の延伸、QOLの維持、認知機能の維持等の非常に重要となってきます。がん診療と異なり、患者教育がより重要で、患者さん側の意識的な生活習慣の改善が求められます。

心臓リハビリテーション

心不全他職種連携によるチーム診療の中でも最近、最も力を入れて行われているものに心臓リハビリテーションがあります

1 概念・構成要素の変化

心臓リハビリテーション(以下、心リハ)の構成要素は,従来の①患者の病態・重症度に関する医学的評価,②医学的評価に基づく運動処方と運動トレーニング,③冠危険因子の改善と患者教育,④心理社会的因子と復職就労に関するカウンセリングに,⑤疾病管理が加わり,心リハの目的として「再入院防止・フレイル予防・抑うつ改善」も重要である.疾病管理プログラムは多職種の医療チームによる, ①診療ガイドラインに基づく標準的医療の提供,②患者教育・生活指導・動機付けによる自己管理(セルフケア)の徹底,③電話や訪問でのモニタリングによる病状増悪の早期発見などの介入であり,これらによる心不全の再入院抑制や生命予後の改善が報告されている.急性期高度医療のみでは完結できない現状を考慮すると,退院後の包括的疾病管理プログラムとしての外来心リハは、非常に重要である。

(後藤葉一 . 2017 13)より改変)

2 時期的区分

心リハは包括的かつ長期の介入プログラムである.現在, 離床や社会復帰などのリハの形態(監視レベル)や内容で分類すべきと考えられ,発症(手術)当日から離床までの「急性期(第I 相 phase I)」,離床後の「回復 期(第II 相phase II)」(前期回復期,後期回復期),社会復帰以後生涯を通じて行われる「維持期(第III相phase III)」に分類されている.

(Izawa H, et al. 2019 16)より改変)

(Izawa H, et al. 2019 16)より改変)

3 心リハフローチャート

高齢心疾患患者に対する急性期から慢性期までの心リハプログラムのフローチャートを以下に示す.急性心筋梗塞(以下、AMI)では、AMIのクリニカルパス,急性心不全では日本心臓リハビリテーション学会の「心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版)」に準拠して離床を進めるとともに, 早期から合併疾患,心理的要因,社会的要因を評価し,適切な治療を行う.また,血行動態不安定や身体機能低下によって離床が進まない場合は,必要に応じて多職種による退院支援カンファレンスを行うことが望ましい.血行動態が不安定で早期離床や積極的な運動療法を実施できない症例に対しては,他動運動を中心としたデコンディショニング予防目的の理学療法を実施する.

心リハフローチャート

4 患者教育

心リハにおける患者教育の項目は,運動,栄養のほか,ストレスマネジメントや復職など多岐にわたる.患者教育においては患者のリハに対するアドヒアランスを高めることが重要である.そのためのアプローチとして,動機づけの強化,医療者による継続的で専門的な指導,キーパーソンからの社会的支援などが示されている.患者が主体的に取り組めるように支援していくことにより,運動療法や生活習慣の継続的な改善が期待できる.

患者教育

5 有酸素運動

有酸素運動は大きな筋群を使うリズミカルで動的かつ有気的エネルギー産生でまかなえる強度の運動を一定時間行う.代表的な運動様式として,ウォーキング,自転車エルゴメータでの運動がある.ランニング,サイクリング,水泳,水中ウォーキングなども,ATレベル以下であれば有酸素運動に該当する.エアロビクスや集団スポーツも有酸素運動として取り入れられることがあるが,競技性のない運動であることが前提である.運動療法導入初期には,運動中の心電図や血圧のモニタリングが容易で,運動強度を調節しやすい固定式自転車エルゴメータやトレッドミルが用いられることが多い.在宅運動療法など非監視下での強度順守には,運動時脈拍モニタリングが可能となるデバイスの使用が推奨される.以下に有酸素運動実施時の注意点を示す.

有酸素運動実施時の一般的な注意点

6 早期離床とデコンディショニング予防の重要性

心血管疾患に対する早期離床および院内でのADL拡大の重要性については,健常高齢者における10日間のベッドレストが運動耐容能や骨格筋力を12~13%低下させること,集中治療室における大腿部の筋層厚や周径の低下が在院日数と負の相関関係にあることなどからも重視される.集中治療室では各種臓器の機能の改善と全身管理が最優先される.そのため,各種臓器機能が改善傾向にあり, 生命危機から脱出していることが積極的な運動開始の条件である.この条件が満たされた際に「早期離床と早期からの積極的な運動」が開始される. この場合 の「早期離床と早期からの積極的な運動」とは,離床やADL 拡大に向けた積極的なベッド上で行う運動を意図している.以下に積極的運動の開始基準を示す.

早期離床とデコンディショニング予防の重要性

7 外来心臓リハビリテーションの重要性

近年,AMIに対する再灌流療法の普及や心臓手術の低侵襲化などにより,早期離床と早期退院が可能となり,心疾患で入院中に高度の身体デコンディショニングをきたす症例が著しく減少した.その結果,心リハの主目的も身体機能回復から長期予後改善に向けた再発予防へと変わりつつある.外来通院リハでは多職種スタッフの指導の下で,退院早期から再発予防を目指した運動療法や生活習慣管理を実施することが可能である(包括的心臓リハビリテーション).入院期間の短期化に伴い,それを補完する外来通院リハの重要性はますます高まってきているといえる.したがって,退院後の外来通院リハ参加へ向けて,限られた時間であっても入院中に十分な動機づけを図ることが重要である.以下に外来リハのエビデンスレベルを示す.

◆エビデンスレベル(心不全)

◆エビデンスレベル(安定狭心症,PCI患者/心臓術後)

◆エビデンスレベル(QOL,うつ病)

◆エビデンスレベル(地域連携,多職種連携)